2023年1月23日月曜日

リエージュ再訪

 お久しぶりです。こひつじ1号です。

ベルギーは2023年に入ってすぐ、国内の原子力発電所2機、ドエルとティアンジュを10年延長することを正式に発表しました。

 

https://jp.reuters.com/article/belgium-nuclear-idJPKBN2TP055

ロシアウクライナ戦争が始まったことで、エネルギーの高騰が半端なく、仕方ないとはいえ、古い原発を動かし続けるのはやっぱり不安です。

2017年にはヒューマンチェーンにも参加しましたが、何万人参加しようが、結局 は実行されてしまうのか。。。

私の相方は、近所で開かれたグリーンピースのイベントに出かけて行きました。

今回の稼働延長について、グリンピースとして何かしらアクションをするのかどうか聞いたところ、何もする予定がないというのでかなり憤慨していました。

それでは、ということで、私が、ベルギーのアンチ原発NPOの連絡先を相方に教えたところ、早速連絡をとり、次回の会合に参加したいと言い出しました。

以前、 EU本部で開かれた、緑の党主催福島関連カンファレンスに参加した時に名刺をもらったリエージュの団体「Fin de Nuclaer」です。

リエージュはティアンジュ原発があるユイの町から30キロぐらいしか離れていません。遠くに煙が出ているのが見えるぐらいの場所です。

10年前、福島原発事故の後、越境してきたドイツ人たちと一緒に大きなデモをやっていました。

ブリュッセルからは電車で1時間ぐらい。

今回はメンバーの一人、ジュリアンのうちに泊めてもらえることになりました。

リエージュはもともと司教区だったこともあり、大きなカテドラルがある古い町です。近代に入ってからは、炭鉱の労働者も多く住んでいたということ




会合があった場所は、カテドラルの裏あたりから始まる 一角。

長い坂道沿いに、古い労働者むけに作られた家屋が続いています。入り口を覗いていたら、年配の女性に「フェミニストの会議に来たのですか?」と聞かれました。

「いえ原発のほうです」と答えると、「ああ、それは隣です。」と言われました。今日は会合日和なの?

 

隣のドアから入ってみると、NPOメンバーは、十人ほど。ほとんどが年配の人たちばかり。NPO自体が風前のともしびのように見えました。

今の時代、若人は原発に関心がないということ。こんなに近くに住んでいるのに。いや、住んでいるからこそ、というべきなのでしょうか。

実際、原発立地のユイの街では、雇用が守られたことに対して安堵の声が多いことがニュースで流れていました。

また、最近、ベルギーのエコロ政党の若き当主が「私たちの世代は原発には興味ありません」と言い放ったとか。結局エコロ政党もあてにはできません。

ここのところ、さらに深刻になってきた気候問題に対応するため、ヨーロッパでは、再び原発を二酸化炭素を出さないクリーンエネルギーと位置づける傾向もあって、福島の原発事故以降、ヨーロッパが原発廃止に舵を切ったことが嘘だったかのような有様です。

 

会合の後、みんなでご飯を食べに行きました。初めての夜のリエージュ。

夜遅くまでやっているバーやライブハウス、レストランも多い街だと聞いていました。行ったのはベジバーガーのお店。肉が食べたければ向かいのレストランで食べれるよ、とジュリアンが冗談を言っていました。

食後、もっともっと坂の上にあるジュリアンの家まで、ふうふう言いながら歩きました。

リエージュまで来る日本人ツーリストはあまりいませんが、オランダ人のツーリストは多いとか 。オランダには坂がないので、こういう上がり下がりのある街が好きなのかしらん。

ジュリアンの家の中も細くて急な階段ばかりで、リエージュに住んだらジム通いする必要なさそうです 。

 

ジュリアンはフランス人なのですが、奥さんがリエージュの人。

ここに越してきてから、アンチ原発運動に参加するようになったのだそうです。

二人の話を聞いていると、原発の近くに住んでいるという不安に正面から向かい合っている様子。これが正常な対応だと思うのだけれど、彼らは少数派なんですよね。

 

去年の夏、ベルギー南部ではあちこちで大きな洪水が起こりましたが、ムーズ川沿いに建っているティアンジュ原発にも被害がありました。

ただ、福島原発の津波被害を受けて、水よけの堤防を新たに設置していたために大事に至らなかったとか。

当時、南フランスに家族で里帰りしていたジュリアンは、もし被害が大きくて放射能漏れなどあったらリエージュには戻らない気でいたと、真面目な顔で語っていました。

 

また、学校に勤めているというジュリアンの奥さんによると、事故があった時の予行練習もシュミレーションも何も行われていないので、学校にいるときに事故があった場合子供達をどうするのか、5時になったら家に返すのか。そんなことは、教師だけでは判断できないと言っていました。

ドイツ側では、非常時の対処の仕方などかなり細かいことが決められて文章化されているので、ドイツ情報を入手して読んでいるそうです。

事故後、すぐに外に出るのは被ばくの危険があるので、しばらく屋内にいるように と書かれているとか。。

市民は、非常時どうやって非難するのか。何も示されていないのは更に不安です。

リエージュは全くのバス不足で、地域の学校では、たった一台のバスを複数の学校で使い回ししていて、3ヶ月前に予約を取らなければいけないような状態です。いざとなった時、それで対応できるのか。

10年延長すると決めたのなら、緊急事の対応も細かく決めておいてほしいものです。ベルギーも日本に負けず劣らず呑気な対応しかしていないということが、今回よくわかりました。

ただ、ベルギーは今年から自然エネルギーの方にもたくさん予算をつけるようですから、10年後の原発脱却を目指すという方向性ではあります。

日本は、自然エネルギーにシフトはせずに、更に稼働延長する予定だそうですから太っ腹です。

 

日本は今ここ。 https://cnic.jp/46131 

 

 

福島で当時起こったことを話すうちに、久しぶりに当時のパニック状態、津波による被害の大きさと、放射能漏れによって救助もされずに死んでいった人々のことを考えました。

ベルギー政府は、2017年の段階で、全居住者にヨードを配りました。でもきちんとした住民の脱出計画は立てていません。

ティアンジュの原発は、住宅地のすぐそばにあるのです。ユイの駅前から大きな煙突が目の前に見えるほどです。

みんなどうやって逃げるのでしょう。車で?

20キロ圏内の人たちが全員? 全く想像で来ません。

 

相方は、この小さなNPOのこともジュリアンのこともとても気に入ったようで、来週もリエージュでの仕事ついでに、ジュリアン宅に泊まらせてもらうことにしたそうです。

今年6月、廃棄物処理の予定地、ブールで行われるデモに参加するつもりだとか。ようやく、アクティビストとして目覚めたのでしょうかねえ?


 

 


 


 

 

 

2019年2月5日火曜日

エクスポ「シェルタースダジオ」訪問 

こひつじ1:こひつじ2と一緒にユイに行ってきた。今日はその話をしようと思う。
こひつじ3:ユイに? それはまたどうして?
こひつじ2:アーティストの、セシル・マサーの展示があったんだよ。
こひつじ3:どんな作品なの?
こひつじ2:放射能廃棄物に関する研究っていうか、リサーチして彼女のプロジェクトとして作品を製作してる。
こひつじ3:具体的に何を作ってるの?
こひつじ2:平面図とか書いてるね。
こひつじ1:放射性廃棄物処理場のマケットとか作ってるよね。
こひつじ3:自分の好きなマケットってこと?
こひつじ1:いや、実際にアリゾナとかの処理場 に行って、写真を撮ったりしてそれを基に作ってる。またそれをシルクスクリーンの作品にしたりとか。
こひつじ2:原子力のマークっていうの?印みたいなものをよく使ってる。

こひつじ1:最初は、放射性物質のヨウ素やセシイムみたいなものを表すマークにグラフィックとして興味があったみたいなんだけど、その後どんどん、廃棄物の問題を中心にやるようになったんだよね。今回は、ユイの文化センターと教会の2カ所で展示をしてた。 セシルだけじゃなくて、セシルが声かけたアーティストの展示があったの。で、私たちオープニングに行ってきた。
文化センターの入り口に、ティアンジュ原発の写真のコピーが 何種類か置いてあって、ペンとかでその上に好きな絵を描くことができるようになってた。
こひつじ2:子供達がそれで遊べるようになってて、結構面白かった。コラージュもできたりして。同じ階の奥では、地元人たちが作った、原発に関してのオブジェなどが飾ってあって、二階に行くと、アーティストの作品や、建築関係の学生の作品もあった。
こひつじ3:一般の人たちが作ったんだね。すごいいっぱいじゃん。アトリエとかワークショップとかやったんだ。
こひつじ1: それで、私たち、初めて電車でユイに行ったんだけど、ユイの駅を 降りた途端、 駅前に煙突があって煙がモクモク立っててすごかったんだよね。
こひつじ3:煙突? えっ?これそうなの?
こひつじ1:そう、これ、駅のプラットフォームからだよ。
こひつじ3:この煙は何なの?蒸気?
こひつじ2:蒸気だよ。
こひつじ1:まあ、でも、きっとちょっと混ざってるよね。
こひつじ3:駅前なんだ、すごいね。そんなところに作っちゃうなんて。
こひつじ1:駅前に見えるのよ。でかいから。
こひつじ3:すごいシンボリックだね。
こひつじ2:でも、逆に、街中から見えない。
こひつじ3:近いから、建物に隠れちゃうんだね。
こひつじ1:車で行くと、川の向こうに大きな教会があって、その向こうに、バーンと原発が見えてくるよ。すごい風景だよ。なんじゃこりって。
こひつじ3:街の中にボコッとあるように見えるんだね。
こひつじ2:ユイの街から10何キロだもんね。
こひつじ1:フランスのショーズ原発に行った時は、ガイガーカウンターの数値が、原発の中が一番低かった。私の家の中よりも低かったよ。
こひつじ3:そうか、逆に、ちょっと離れたところの方が、放射能の数値が高いんだ。
 
こひつじ3:ところで展覧会はどうだったの?
こひつじ2:教会の中の展示では、20人ぐらいのアーティストの展示がバーッとあったんだけど、結果的にはがっかりだった。
こひつじ3:どうして?
こひつじ2:セシルは、20、30年、同じテーマでやり続けてるわけだけど、他のアーティストは合わせてやったって感じ。
こひつじ1:ちょっと残念だったよね。でもセシルとしては、自分だけでなく、いろんな人に関わって欲しかったんだよね。それと、現地で展示するということ、原発のお膝元でやるというのが大切なことだった。地元の人が見に来れるなら、それはいいことだと思う。ただ、ずっとその問題に関わっていなかったアーティストの作品は弱いというか。。。
こひつじ2:やっつけっていうか。
こひつじ1:私たち、ハッセルトの「Nuclear-culture」の展示も見てるから、それに比べたら薄っぺらいというか。
こひつじ2:合同の展示と言いながら、一人一人バラバラな感じもしたし。
こひつじ3:寄せ集めの展示になっちゃったんだね。
こひつじ2:そんな感じがした。
こひつじ1:難しいね。アートで何かやるのって。
こひつじ1:ユイのカルチャーセンターの人と話したら、地元で原発で働いてる人結構いるみたい。働いてる人は、あんまりいろんなこと言えないよね。
こひつじ3: だって恩恵受けてるわけだし。ユイも、外から見た感じと、中で感じてることって違うかもしれない。その両者のコンタクトがもっとあったら、もうちょっと良かったのかもね。
こひつじ2: あったんだけどね。地元の人たちとのワークショップと作品展示もあったわけだし。逆に地元の人たちの作品の方がパッションを感じて良かった。でも、それが一階の薄暗いスペースに押しやられてるみたいだったって、一緒に行った夫は怒ってた。
こひつじ3: 地元の人とのコンタクトがメインだったら良かったのかな。
こひつじ1:セシルは、原発の人も呼んで接触しようとしていたみたいだけど、結局最後まで返事がこなかったって。
こひつじ3: それこそ、そういう人たち呼んでワークショップできればよかったのにね。
こひつじ1:それって職員ってこと?
こひつじ3: うん、例えばね。だって、職員は、それこそ浴びまくっているわけだから。知り合いで原発勤の人が昔いて、浴びた放射能を規制するためのガラスバッジつけてたんだけど、意外とすぐに制限を超える色に変わっちゃうらしいの。でもそれでも仕事し続けるんだよね、原発内で。規定以上の値の放射能なんてすぐに達してしまうから、それをいちいち守っていたら仕事にならないらしい。
その後、日本では原発事故が起きて、たくさん考え直す職員などもいただろうけど、村自体はその原発に恩恵受けてるからね。それで村の人とかの経済とかが回っているわけだから。その村には職員の大切な家族とかもいて。みんなそれで生活が回っている。
だから、何か健康上に問題が起きても、それが放射能のせいなんて言わないし、言えなかったと思う。
口が裂けてもね。多分そういう気持ちでいるんだと思う。
ユイにも、そういう風に働いてる人、たくさんいると思うよ。
そういう人たちの話を聞いての展示ができたらいいのに。
こひつじ1: もう少し、突っ込んだ話ができたらね。
ひつじ3: でも、難しいだろうね。口を開いてもらうのも、そこに、来てもらうことさえ。
こひつじ1: 私がハッセルトで「Nuclaer-culture」のラウンドテーブルに参加した時、ベルギーの放射性廃棄物処分場の候補地のデッセルの地元住人が来てて、話してたのを聞いたよ。
彼は、建設自体に反対してるわけでもない。ただよくわからないから、すごくたくさんの質問があって、処分場計画を進める行政側の団体がしょっちゅう開いている説明会や、話し合いの場には、なるべく出るようにしてると言ってた。
そういうの聞いて、知らない間にやっちゃえ、みたいなことは、行政側もしないように見える。
処分場に放射性物質入れた後、蓋して忘れちゃえっていうのも、すごく危険だし、次世代にとってもやばいんで、メモリアルのような公園を作るプロジェクトも同時に進んでる。それはセシルも作品の中で提唱してることなんだけどね。若い建築家が、予想図みたいなの描いて発表してたよ。すごくつまらない 感じの、殺風景な公園と建物だった。大きい計画のイメージってそういうの多いよね。
こひつじ2: ユイの展示でも、建築科の学生が描いた作品で、原発廃炉の後、ミーティングルームに使うっていうのがあったね。
あんな、窓もないところでね。 入ったところがラウンジで、上がミーティングルームになってるみたいな。
こひつじ1: 実際に使った原発を廃炉の後使うとなると、いったいどのくらい待てば放射能値が下がるのかわからないね。
こひつじ2:現実味がないよね。
こひつじ3:3万年ぐらい?
こひつじ2:原発を空っぽにするのってどうやるの?
こひつじ1: そうだよねー。前に、ロシアの原子力潜水艦解体のドキュメンタリーみたけど、部品一個でも、水で何回も洗浄して、放射線の数値が下がるまで待たなきゃ作業できないって言ってたよ。解体には、専門知識のある人が増えないとね。新しい原発作るより、そっちにお金かけないとどうしようもないよね。
こひつじ3: 今はまだいいけどってことかな。そういう公共のものは、特に考えて作らないとダメだよね。先の先まで考えてからでないと。
こひつじ1: ただ、先進の技術は見切り発車になりがちなんだね。
使ってみないとわからないっていう部分もあるし。開発するのは研究者だけど、マーケットが先に動くから。
こひつじ3: そうなると、マーケットをコントロールしないとだよね。原発もテクノロジーも倫理観とのせめぎ合いだね。

                                           ©Julie Maréchal

参考
https://www.evensi.be/expo-tihange-esquisse-shelter-studio-centre-culturel-huy/287135528

https://blog.goo.ne.jp/mikakohh/e/30de4603ce817cdd54a533d962717f5b

https://z33research.be/studiotime/nuclear-culture/

https://www.ondraf.be/stockage-en-surface-%C3%A0-dessel

https://www.out.be/fr/evenements/557780/rencontre-avec-l-artiste-cecile-massart-dans-son-shelter-studio/